牛乳で背は伸びるのは迷信?論文から説明:アメリカでは飲ませない?
毎日牛乳を飲めば背が高くなる?
その言葉を信じて、子どものころ牛乳を一生懸命飲んでいた記憶はありませんか?
子どもの身長を伸ばすために、毎日牛乳を飲ませている親も少なくありません。
しかし、最近はアメリカでは牛乳は飲まないといったネット記事も出回っています。
影響力のある芸能人が「牛乳には効果なし」「牛乳は毒」というような発言をすることもあるようです。
では、実際のところ牛乳には背を伸ばす効果があるのでしょうか?
それとも、「牛乳を飲むと背が伸びる」は単なる迷信に過ぎないのでしょうか?
最新論文からその答えを探り、なぜ牛乳悪玉説が拡がったのか、牛乳と賢く付き合う方法について説明します。
ブロッコリーやマシュマロなど、ネットで背が伸びると噂される食材の真実については以下の記事で説明しています。
牛乳で背は伸びるの?ー論文調査
実は、成長期の牛乳の摂取量が身長の伸びに関係するという最近の論文が存在します。
少なくとも「成長期に牛乳を飲んでも全く効果を期待できない」という話は極端に過ぎるようです。
海外の論文と国内の論文をそれぞれ紹介します。
毎日の牛乳で2.5㎝の身長差?
2013年の米ハーバード大学の論文で、牛乳が成長期の子どもの身長に与えるポジティブな効果が示唆されました。
牛乳の摂取によって、2.5~5㎝の身長差が生じたという結果でした。
ハーバード大学医学部ブリガム&ウィメンズ病院のバーキー医師をはじめとするグループが発表した研究結果に基づく論文です。
この研究では、9歳から14歳までの女の子5,000人以上を対象に、飲む牛乳の量が身長に影響を及ぼすのか8年間にわたって検証が行われました。
検証に参加した対象人数と期間の長さから、かなり信頼性の高い論文と言えるでしょう。
検証のグループ分けは以下です。
- 1杯飲むか飲まないか/1日
- 1杯飲む/1日
- 2~3杯飲む/1日
- 3杯飲む/1日
結果はどうだったのでしょうか?
Figure 1 illustrates the long term impact of drinking >3 servings/day of milk from age 10 years to adulthood, relative to girls who consistently drink <1 serving/day throughout.
…
The average net difference in eventual adult height is nearly 1 inch, although with consideration of measurement error this may be closer to 2 inches.
編集部訳:図1(上記のグラフ)は、10歳から大人になるまで1日3杯以上の牛乳を飲み続けた場合の、1日1杯未満しか飲まない少女に対する長期的な影響を示しています。
最終的に成人になった際の身長の差は平均して1インチ近くあり、測定誤差を考慮すると2インチに近いかもしれない。
なんと、毎日牛乳を3杯飲む女の子のグループの方が、1日1杯飲むか飲まないかのグループに比べ、成人したときの平均身長がより高かったという結果が出ています。
その差は1~2インチ、つまり2.5~5㎝でした。
この検証では、人種や元々の体格など、様々なタイプの女の子が選ばれています。
また、5,000人という大規模調査であることと8年間という検証期間の長さから、かなり信頼性の高い論文と言えるでしょう。
ただ、この論文は女の子に限った検証結果に基づくものです。
男の子でも同じような結果になるのかはっきりと証明されたわけではありません。
遺伝的な傾向だけでなく、毎日牛乳を飲むことが少なからず身長の伸びに影響を与えることを証明している論文のひとつです。
日本の子どもたちも牛乳摂取量の違いで身長に差が!
日本においても、牛乳摂取量の違いが子どもの身長に大きな影響を与えたことが発表されています。
日本大学の岡田知雄医師が 「食の科学 」2003年12月号で報告した「子どもの生活習慣病の改善と牛乳摂取の効果」という論文です。
122名の男女を以下2グループに分け、小学4年から中学1年までの3年間で身長や体重の増加に差があるか経過観察しました。
- 牛乳1日あたりの摂取量が500mL未満(A群)
- 牛乳1日あたりの摂取量が500mL以上(B群)
結果は以下です。
身長の伸び平均(㎝) | 体重の増加平均(kg) | |
A群(牛乳をあまり飲まない) | 18.8 | 13.3 |
B群(牛乳をよく飲む) | 21.3 | 13.3 |
なんと、牛乳を多く飲む子どもたちの身長が、ほぼ飲まない子どもと比較して平均2㎝以上伸びたということです。
しかも、体重の増加には差がありません。
つまり、牛乳を飲むと背は伸び、肥満にはつながらないという結果です。
上記アメリカでの検証でも同じような結果が出ているので、人種的な要因に左右されない結果として興味深いのではないでしょうか。
また、男女両方を調査している点でも注目に値する調査です。
牛乳が成長期の子どもに有益な理由
では、どうして牛乳の摂取量が子どもの成長に影響を与えたのでしょうか?
牛乳が成長期の子どもにとって良いとされる理由は以下です。
- カルシウムを効率よく摂取できる
- 成長に必要な栄養素をバランスよく含む
それぞれの理由について詳しく説明します。
カルシウムを効率よく摂取できる
牛乳は他の食材に比べてカルシウムを効率よく摂取できる優れものです。
100g当たりの含有量でいうと、牛乳より多くのカルシウムを含む食材はたくさんあります。
例えば、サクラエビが2,000mg、ひじきが1,000mgです。
牛乳が110mgですから、約10~20倍近くカルシウムを含有しています。
しかし、通常の食事での摂取量に対して考えると以下の数値となり、牛乳のカルシウム優等生ぶりが分かります。
一度の食事での平均的な摂取量 | カルシウム量 | |
サクラエビ | 8g | 160mg |
ひじき | 8g | 80mg |
牛乳 | 200mL | 227mg |
牛乳が飲めない方向けおすすめのカルシウム代替食材について、こちらの記事で分かりやすく解説しています。
牛乳はカルシウムの吸収率が高い
以下のようにカルシウム吸収率の高さも牛乳の特徴です。
- 牛乳=40%
- 小魚類=33%
- 野莱類=19%
さらに、牛乳にはカルシウムの吸収を助けるビタミンDも含まれています。
やはり、骨の形成に欠かせないカルシウムを効率よく摂取できる牛乳は、成長期の子どもにとって効果的な食材でしょう。
最近は成長ホルモンの分泌を高めるアミノ酸アルギニンの台頭により、伸長に役立つ栄養素として若干影が薄くなってきた感があるかもしれません。
アルギニンの特徴・実際の効果についてはこちらの記事でまとめています。
それでも、カルシウムが体の健やかな成長に欠かせない重要な栄養素であることは疑いようがありません。
成長に必要な栄養素をバランスよく含む
牛乳にはカルシウムだけでなく、成長期の子どもにとって必要な以下の栄養素がバランスよく含まれています。
- たんぱく質
- 脂質
- 炭水化物
- ミネラル
- ビタミン類
たんぱく質・脂質・炭水化物は、ヒトの体をつくる基本的な3大栄養素です。
活動するためのエネルギー源にもなります。
加えて、牛乳によるビタミン類の摂取も体の健やかな成長に効果的です。
例えば、牛乳に含まれるビタミンAは舌や皮膚、眼の健康に関係しています。
小学生の1日あたり必要なビタミンAの推奨量に対し、牛乳200mLで約16%前後補給可能です。
また、ビタミンB2は皮膚や粘膜、髪、爪などの細胞の再生に役立つことから 「発育のビタミン」ともいわれる栄養素です。
なぜ牛乳は有害と言われるのか
科学論文から考えても牛乳は子どもの成長にいいという見方は信頼できそうです。
しかし最近、牛乳は飲まない方がいいという意見が主にネット上で広まっています。
なぜ牛乳は有害と言われるようになったのでしょうか?
それには「牛乳神話」のきっかけを作ったスポック博士の意見と関係があるようです。
アメリカでスポック博士が成長期の子どもに牛乳を推奨
「牛乳神話」のきっかけを作ったのは、アメリカの有名小児科医ベンジャミン・スポック博士です。
日本では学校給食には牛乳は付き物で、ほとんどの人が「牛乳=健康」というイメージをお持ちだと思います。
これもスポック博士が作り出したイメージと聞くと多くの方は驚くかもしれません。
『スポック博士の育児書』という書籍が1946年に出版されました。
42か国語に翻訳され、世界中で5,000万冊も販売されたベストセラー本です。
日本では1966年(昭和41)に初版が出版されています。
スポック博士はその書の中でこう語っています。
牛乳には、人間の体に要る、ほとんど全部の成分が、含まれています。
つまり、蛋白質、脂肪、糖分、ミネラル、それに、たいていのビタミンが入っています。
もっとも、よくバランスのとれた食事をしている子なら、牛乳をのまなくても、他の食べものから、こういった大切な栄養素をとることができますが、カルシウムだけは例外です。
牛乳は、カルシウムをたっぷり含んでいる唯一のたべものなのです。
だから、どんな形にせよ、よちよち歩きの子には、一日に450cc~560cc、もっと大きい子には、700cc~950ccの牛乳を与えなければいけないのです。
上記のようにスポック博士は、幼児にたくさんの牛乳を飲ませなければいけないと親に説いていました。
日本でも、当時多くの人がスポック博士の育児書に影響を受け「牛乳=健康」「牛乳は完全食品」というイメージが全国へと広がります。
これが「牛乳神話」の始まりです。
ところがスポック博士のこの意見、現在でも貫かれているわけではありません。
スポック博士の牛乳論には、日本人に知らされなかった続きがあります。
そこに、「牛乳は有害」と言われるようになった秘密が隠されています。
日本のスポック博士ファンに知らされなかった驚愕の真実
実は、スポック博士が子どもに牛乳を飲ませるべきだと主張していたのは第6版まででした。
「スポック博士の育児書」は1946年の初版につづき、以下のように改訂版が出版されてきました。
- 1992年 第6版 →最新の邦訳
- 1998年 第7版
- 2004年 第8版
第7版では、以下のように180度違う意見を主張するようになったのです。
そして、日本語の最新版は第6版までとなっています。
つまり、以下のようなスポック博士の最新見解は、日本では長い間知らされないままだったのです。
私はもはや、2歳を過ぎた人間に乳・乳製品を勧めることはしない。
たしかに、乳・乳製品が望ましい食物だと考えていた時期もあった。
しかし、最近の多くの研究や臨床経験に基づいて、医師も『乳・乳製品はよいものだ』とする考えを見直さざるを得なくなったのである。
スポック博士は、子どもに牛乳を勧めることはもうしないと第7版以降はっきり語っています。
彼自身、乳製品を断つ生活を始めたところ体調が良くなったことがきっかけだったようです。
影響力の大きいスポック博士の意見変更に大きなショックを受けた人たちにより、「牛乳は有害だ」という反動的な意見が大々的に出回ることになりました。
博士の意見は急速にアメリカで認知され、1990年代中盤からアメリカでは牛乳=有害説が広まっていきました。
現在のアメリカでの牛乳の消費量は下降傾向
グラフ引用:Find more statistics at Statista
上のグラフは、アメリカでの牛乳消費量が年を追うごとに低下している様子を表しています。
グラフで示しているのは2000年以降ですが、1975年以来の調査によるとアメリカでの牛乳消費量は40%以上減少しているそうです。
最近では、より多くの人が乳製品以外の代替品を探すようになっています。
例えばアーモンドミルク、豆乳、ピスタチオミルク、ライスミルク、オーツミルクなどの植物由来ミルクです。
特に豆乳(ソイミルク)は牛乳の安価かつ高栄養素の代替飲料として、大きな人気を得ています。
豆乳が牛乳に代わるカルシウム摂取源となるのか?以下の記事で分かりやすく解説しています。
さらに、アメリカの一般家庭での朝食定番だったシリアル(コーンフレーク)の人気が下がっています。
多くの人が、糖分の少ないプロテインバーなどの朝食に移行しているためです。
シリアルの消費量が減ったことも牛乳の消費量低下に拍車をかけているようです。
結局牛乳は毒なの?完全食品なの?
日本でも、動物性の牛乳から植物性ミルクへ移行する人も増えているようです。
ネット上では「牛乳はもともと牛が飲むものであって、人間の子どもが飲むと毒」とか「親牛の牛乳を子牛から奪うなんて残酷」のような牛乳を完全に否定する意見も見られます。
しかし、少なくともこの記事で検討している栄養学の観点からは根拠が薄い感情的意見が多いように感じます。
動物愛護や環境保護の観点での牛乳摂取の是非、またアレルギーの問題や乳糖不耐については別記事で検証する予定です。
牛乳の栄養効果は、上記でも説明した数々の検証論文により実証されています。
飲み過ぎには注意が必要かもしれませんが、牛乳が子どもに必要な栄養素が含まれている飲み物であることは間違いありません。
牛乳さえ飲んでおけば背は伸びる?
当然ですが、牛乳さえ飲んでおけば背が伸びるとは言えません。
以前のように、牛乳が完全食品であるとか、牛乳さえ飲んでおけば栄養バランスが取れるといった極端な見方は避けましょう。
ましてや「牛乳を飲めないと背が伸びない」などと悲観的になる必要は全くありません。
毎日のバランスの良い食事により、子どもの健康な体は作られます。
牛乳に含まれるカルシウム・たんぱく質・ビタミンなどの栄養成分は他の食事やサプリで十分摂れます。
この記事では詳細に論じませんが、牛乳にはアレルギーや乳糖不耐といった子供の体質との相性問題もあります。
ですから、牛乳にこだわることなく子どもの体質に合った方法で必要な栄養素を補給する方が大切でしょう。
バランスのとれた食事、運動、睡眠が成長には欠かせません。
多くの親御さんが活用している成長サプリの比較一覧はこちらです。
牛乳を日常に賢く摂り入れて背を伸ばす方法
牛乳を毎日の生活に賢く取り入れれば、子どもの成長を効果的にサポートできます。
大切なのは、飲むタイミングとカロリーコントロールです。
ただし、牛乳にはアレルギーの問題や乳糖不耐といった問題もあるので、子どもの体質に合った方法で必要な栄養素を補給する方が大切でしょう。
何度も言いますが、「牛乳を飲めないと背が伸びない」ことはまったくありません。
牛乳はいつ飲むのがいい?
子どもが牛乳を飲む一番いいタイミングはいつなのでしょうか?
以下3つのタイミングで、それぞれ期待できる効果が違います。
- 朝
- 運動後
- 夜
目的に合わせて摂取しましょう。
朝
毎朝牛乳を飲むことで睡眠の質を改善する効果が期待できます。
牛乳の乳たんぱく質にはトリプトファンという必須アミノ酸が豊富に含まれています。
トリプトファンは、日中は脳内でセロトニンに、夜になるとメラトニンに変化します。
セロトニンは、精神の安定や安心感や平常心を維持するのに役立ちます。
メラトニンは体内時計を調節するホルモンで、睡眠を促します。
睡眠の質は子どもの成長に大きな影響を与えます。
子どもの睡眠の質が気になるのであれば、朝の牛乳がおすすめです。
運動後
牛乳に含まれる乳たんぱく質には、筋肉の回復に必要なアミノ酸が多く含まれています。
運動後に飲むことで、疲労した筋肉に必要な栄養素を送ることができるでしょう。
子どもの身長を伸ばすためには、骨だけでなく筋肉の発育にも気を配る必要があります。
身長を気にする子どもにとって、運動後の牛乳も効果的です。
夜
骨へのカルシウム沈着は夜が優位になるといわれています。
骨の形成のためにカルシウムやたんぱく質を効率よく摂取したいのであれば、夕方から夜の牛乳摂取がおすすめです。
「栄養を摂る」という意味では、夕食と一緒にとってもよいでしょう。
カロリーは大丈夫?
牛乳は健康にいいといっても、子どもに好きなだけ飲ませることは逆効果です。
肥満傾向のある子どもであれば、カロリーの過剰摂取の危険もあるので気を付けましょう。
日本乳業協会のすすめによると、小学生の1日推奨量は300ml前後です。
給食で牛乳が出ているのであれば、家ではコップ半分(100ml)ほどで十分といえます。
活動量や食事全体のバランスを考えて飲むことも大切です。
もし牛乳に溶かすタイプの成長サプリメントを活用しているのであれば、量のコントロールや代替の乳製品の活用も検討しましょう。
まとめ
今回は、牛乳で背が伸びるのか、それとも子どもにとって毒なのかについて考えました。
最近の論文からすると、牛乳は子どもの成長に必要な栄養素が含まれた良い食材です。
しかし、牛乳だけで背を伸ばそうとするのも現実的ではありません。
大切なのは、毎日の食事や睡眠、適度な運動にも気を配ることです。
忙しくて食事に手が回らないという時は、栄養面の補助としてサプリを活用することもできます。
牛乳だけに頼らず、子どもの成長に何が必要かをよく理解したうえで親としてできることを行っていきましょう。